金沢・湯涌ぼんぼり祭りは、これからの観光地としての在り方に1つの解答を出した事例と言えるでしょう。

スケールは大きいですが、湯涌ぼんぼり祭りの起源、全国の老舗名湯に共通する問題をどのように乗り越えていったのか、一次的なブームをしっかりキャッチしたポイント、聖地の極めて理想的な幕引きの仕方など、アニメ業界に携わるものとしてご紹介します。

湯涌ぼんぼり祭りの起源

湯涌ぼんぼり祭りは、元々は『花咲くいろは』という湯涌温泉の温泉旅館を舞台にしたアニメがあり、その中で開催されていたお祭りを実現したのが起源です。

アニメ設定 モデル地
舞台 湯乃鷺温泉 湯涌温泉
仕事場 喜翆荘 白雲楼ホテル(1999年廃業)

せっかくご当地としてアピールしてもらったのだからという理由で、2011年から湯涌ぼんぼり祭りを始めて、すでに恒例行事になりつつあります。

 

老舗名湯・湯涌温泉の問題点を解消~廃れるということ、寂れるということ

価値観が多様化した現代社会では、有名な温泉地でさえ、『景気のいい昔ならものすごい人の往来があったんだろうな。』ってぐらいの形跡だけになり、下駄の音や町の人達の笑い声も鳴り響いていないところの多くなりました。

見ると聞くとは大違いのところも多く、ガイドブック上では見た目きれいなところだけが紹介されていて、温泉地に実際に行ってみたら、最初の期待感よりも残念だったという気持ちになっただけでなく、温泉街の人影も殆んど見られなく、商店はシャッター通りになっていて寂しい気持ちになったなど、旅行で感じた経験は一度はあるのではないでしょうか?

湯涌温泉も例外ではなく、昔ながらのサービスと温泉効能は申し分ないが、温泉好きにしか知られていない点がネックでした。

そこに、ご当地アニメとして『花咲くいろは』が放映され、アニメ聖地として一気に知名度が高まることで若者の注目を浴び、人気(ひとけ)が戻ったのです。

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『花咲くいろは』のアニメ聖地として観光客がゾクゾク

アニメのファンは、自分が好きな作品でモデルになった場所に行ってみることが多く、彼らの間では聖地巡礼とも呼ばれています。

一度アニメ聖地になると、地元住民が知らない間にいきなり大人数の観光客が押し掛けてくるパターンもあって、そのブームをどう活かすのかが悩みの種です。知名度が高いアニメは社会現象にまで発展するので、そのアニメのキャラクターのグッズを地元の観光案内所などに設置して、ファンと共存を図るケースがよく見られます。

ところが、アニメにはあまり興味がない、もしくは、アニメという媒体を嫌っている人もいるので、そのブームが終わった後の影響も考慮して、どこまでアニメ寄りにするのかは、現在でも各所で議論されている途中です。

聖地ブームをしっかりキャッチした基盤

アニメ作品の権利者、そして舞台やモデルとなった場所を「聖地」として公式見解なども必要ですし、地元のお祭りとなるには、自治体のバックアップだけでなく、地元企業の協賛も必要です。

アニメ作品の権利者の理解

『花咲くいろは』の制作会社ピーエーワークスは、富山県南砺市に本社を構えるアニメ制作会社です。

その作品には、地方のとある地域を舞台に展開されているものが多く、その中でも『花咲くいろは』は近県の湯涌温泉を舞台モデルとしたことから、より深い愛着が感じられます。

そこから生み出された湯涌ぼんぼり祭りと地元の相性が良いのは当然の話です。

その事実を見抜いて、実際にそのお祭りを再現してみようと考えた人間は素晴らしいですし、それを全員が一丸となって盛り上げていける地域自治体としての底力も驚嘆に値します。

作品が終わっても、このお祭りは地元の人々の力によって、長く続けてもらえるものにしたい。

製作側も協力させていただく上でそのことをとても意識しました。

その為、アニメキャラのデザイン的な要素を極力排除した神事に落ち着いたのだと思います。

作品の寿命とお祭りの寿命では、測る物差しが違いますからね。

引用元:P.A.WORKS Blog 湯涌ぼんぼり祭りで・・・②

官民の協力

その点において官民が協力して運営している湯涌ぼんぼり祭りは、アニメ発祥ではあるものの、地域の将来を担う地元の子ども達、金沢市に関係している企業、金沢市の行政の全てによって成り立っているのが特徴です。

まだ歴史が浅いだけで、その実態は昔ながらの祭りと変わらず、地域の文化の象徴でありながらも、観光客の誘致によって地元を活性化させてくれています。

人気頼らない工夫で、地元の祭りとして未来へ

アニメ聖地と地域との共存では、いつまでもアニメの人気だけに頼らず、それでいて温故知新としてアニメでも楽しめる工夫が求められます。

最初はアニメの人気に後押しされる形で開始され、出演していた声優によるイベントや、アニメのキャラクターによる宣伝ポスター等で告知されていましたが、すでにアニメを抜きにしても成り立つ成果を上げています。

小売店ではアニメとコラボした限定商品を販売していますが、湯涌ぼんぼり祭りの会場としてはもうアニメの色はかなり薄まっており、純粋にお祭りとしても楽しめる環境です。

アニメから誕生したお祭りだと知らないまま、湯涌温泉のお祭りを堪能して、後から花咲くいろはを視聴する方も多数います。

急激な人の出入りの増加に振り回されやすいアニメ聖地ですが、この金沢市については上手く取り入れて、自らの文化にまで昇華させた、本当に見事な手腕です。

ビジネスチャンスであるアニメ聖地としての注目は、数年間も経てば、目に見える形でなくなっていきます。

そのことに気づかずに、ただ待っているだけで観光客が来てくれると勘違いしてしまうと、アニメ聖地だから一度は行ってみたがもういいやという観光客が増えていくだけのオチになりやすいのです。

その地域の魅力を正しく理解して、アニメ聖地として注目された部分から丁寧に導くことで、リピーターを作っていくのが、理想的な共存の在り方になります。

色々な人間に知ってもらう良いきっかけであることには変わりないので、そのチャンスを逃さず、人を集めやすいお祭りのように、自らのセールスポイントを体現したイベントを作るべきでしょう。

ただし、地域を取り仕切っている市役所などのリーダー役がしっかりしていないと、見当違いな方向へ迷走してしまう可能性が高いので、注意しなければいけません。

湯涌ぼんぼり祭りを見てみると、金沢市の湯涌温泉街活性化事業費の一部に湯涌ぼんぼり祭り開催費として、2017年度(平成29年度)も300万の予算が計上されていて、しかも市長の挨拶といった公式行事の形になっています。

国庫補助金の交付期間は平成26年度をもって終了。

平成29年度湯涌ぼんぼり祭り開催費。

お祭りの主催者は湯涌温泉観光協会であるにもかかわらず、市役所として十分な予算を回して、行政面でバックアップを行っているからこそ、日本全国に知られるほどの有名な行事になったことは、他の地域も見習う必要があります。

まとめ

以上、湯涌ぼんぼり祭りが最高の形で共存できた、一連の流れです。アニメ聖地と地域との共存を考える際には、この新たなお祭りが1つのモデルケースとして挙げられます。

石川県は湯涌温泉だけでなく辰口温泉・和倉温泉・山代温泉・山中温泉・片山津温泉・粟津温泉などの湯治場も長い歴史があり、温泉地だけでなく兼六園など観光地としても一流の品格を備えています。

しかし、湯涌ぼんぼり祭りはそれなりに名前のある温泉地であり昔ながらのやり方を守ることも素晴らしいけど、新しい空気を入れて混ぜあわせていったほうが末永く続く温泉地になるという例です。

モデルの魅力を活かしつつ、上手くフィクション的な要素も取り入れた『花咲くいろは』は、まさにアニメによる地元PRそのものです。

アニメから地域の活性化。アニメの力って、すごいですね。

湯涌ぼんぼり祭り 2018

徐々にアニメの絵柄も少なくなってきました。『花咲くいろは』ファンは寂しさもあるけれど、本物になった証でもあるから、嬉しさもあって複雑かもしれませんが、アニメの聖地も永続的ではないので極めて理想的な幕引きの仕方かもしれませんね。

湯涌ぼんぼり祭りでは、「個人協賛ぼんぼり」の協賛もできます。

個人協賛に対する御礼状と、自分の名前入りぼんぼりを撮った写真は届きますけど、実際に行って探して見つけるとテンション上がるでしょうね。

・運営:湯涌温泉観光協会
・湯涌ぼんぼり祭り点灯:未定(4月に開催日発表)
・本祭:未定(4月に開催日発表)
・公式サイト:http://yuwaku.gr.jp/

湯涌温泉の数軒ある旅館は、4月の開催日発表の約30分後には全旅館が満室となってしまうようですよ(北國新聞社より)。